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孫子の兵法 x ゲーム -- 古典戦術をゲーム戦略に読み替える

孫子の兵法 x ゲーム -- 古典戦術をゲーム戦略に読み替える

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」。孫子の兵法のなかでも、ゲーマーに最も刺さるフレーズかもしれない。約2500年前に書かれた戦争の教科書が、なぜ今のゲームに通用するのか。それは孫子が扱っているテーマが「戦闘の技術」ではなく「戦略の原則」だからだ。

技術はゲームごとに変わる。エイムの精度、コンボの精度、ラストヒットのタイミング。どれもジャンル固有のスキルで、別のゲームにそのまま持ち込むことはできない。でも「どう考えて、どう判断するか」という戦略の骨格は、ジャンルを超えて使い回せる。

孫子の兵法は全13篇から成る兵法書で、紀元前5世紀ごろの中国で書かれたとされている。ビジネス書としても有名だけど、ゲーム戦略との相性が実はかなり高い。ここでは孫子のエッセンスを「ゲームで勝つための思考法」に読み替えていこう。

「知彼知己」-- 情報収集がすべての土台になる

「敵を知る」をゲームに翻訳する

孫子が最も重視したのは「情報」だった。戦う前に相手の兵力・地形・士気を把握する。現代のゲームでも、これは変わらない。

FPSなら、相手チームの構成やエコノミー(ラウンドごとの所持金状況)を確認すること。ValorantやCS2では、相手のバイ状況(武器の購入状態)を読むだけで次のラウンドの展開がかなり予測できる。格ゲーなら、対戦相手のキャラクターの得意な間合いや確定反撃(ガードした後に確実に反撃できる技)のリストを頭に入れておくこと。MOBAなら、敵チームのドラフト(キャラクター選択フェーズ)から相手の狙いを読むこと。

カードゲームではこの原則が特に明確に出る。遊戯王マスターデュエルやポケポケ(Pokemon Trading Card Game Pocket。ポケモンのデジタルカードゲーム)の環境で流行しているデッキの構成を把握していれば、相手が最初のターンに見せたカード1枚から、デッキの全体像を推測できる。これは「敵を知る」の実践そのものだ。

バトロワでは、降下地点の選択が「敵を知る」の出発点になる。人気の降下先にどのチームが降りやすいか、初動の武器分布はどうか。これを把握しているかどうかで、序盤の生存率がかなり変わる。

「己を知る」をゲームに翻訳する

自分自身の実力を正確に把握できている人は、思っているより少ない。「自分はエイムが強い」と思い込んでいるけど、実はポジショニングのほうが得意だった。「反射神経が弱い」と感じていたけど、実は読みの精度が足りなかっただけだった。そういうズレは珍しくない。

リプレイ分析(自分の試合を録画して後から見返すこと)は、「己を知る」ための最も確実な方法のひとつ。プレイ中は情報処理に追われて冷静な自己評価が難しいが、後から俯瞰して見ると「ここで判断を間違えている」「この場面では別の選択肢があった」といった気づきが出てくる。

パズルゲームや音ゲーでも「己を知る」は有効に働く。ぷよぷよテトリス(ぷよぷよとテトリスが合体した対戦パズルゲーム)であれば、自分の連鎖構築の癖を把握しておくと、試合中にどの形を目指すべきかの判断が速くなる。プロセカ(プロジェクトセカイ。ボーカロイド楽曲のリズムゲーム)なら、自分が苦手なノーツの配置パターンを特定して集中的に練習するほうが、全曲を万遍なくプレイするより効率がいい。

「兵は詭道なり」-- 相手の裏をかく技術

ゲームにおける「騙し」の原理

孫子は「戦争とは騙し合いである」と言い切った。ゲームでも、正面からぶつかるだけが戦い方ではない。

FPSでのフラッシュバン(閃光手榴弾。敵の視界を一時的に奪う)を投げるフリをして相手が顔を背けた瞬間にピーク(遮蔽物から身を出して射線を通す動き)する。格ゲーで投げを匂わせてから打撃を通す。MOBAでワード(視界確保用の設置物)を置いた場所と別の方向からガンク(他レーンへの奇襲。ジャングラーや他レーンのプレイヤーが敵の背後を突く)に行く。どれも「相手の予測を外す」という同じ原理で動いている。

カードゲームでは、手札を伏せる行為そのものがブラフ(はったり)になり得る。実際には何の効果もないカードを伏せていても、相手は「あれは罠かもしれない」と警戒して最適なプレイを選べなくなる。

バトロワでは、射撃音をあえて出して敵の注意をある方向に向けてから、味方が別の角度から詰めるといった「誘導」が成り立つ。

パターンを形成してから裏切る

ただし裏をかくには前提が必要で、「相手がこちらの行動を予測している」状態を作らないといけない。3ラウンド連続で同じルートを通ったら、4ラウンド目に別ルートを通ることが意味を持つ。最初のラウンドからランダムに動いても、相手の裏をかいたことにはならない。

格ゲーでは「起き攻め(相手をダウンさせた後の攻め方の選択)」がこの原理の典型。まず投げを2回通す。相手が「次も投げだろう」と読んで投げ抜けを狙ったところに、打撃を重ねる。パターンの形成→裏切りのサイクルは、あらゆるジャンルの読み合いの核になっている。

「戦わずして勝つ」-- リスクを最小化する戦略

不利な戦闘を避ける判断力

孫子の最高原則は「戦わずして勝つ」。これをゲームに読み替えると、「不利な状況で無理に戦わない」という判断力になる。

FPSで人数不利のときにリテイク(取り返す行動)を無理に仕掛けるよりも、ラウンドを捨てて次に備える。MOBAで相手の育ったキャリーにソロで挑まない。バトロワで装備が整っていない段階で撃ち合いを始めない。どれも「戦わない判断」が最終的な勝率を上げるケースだ。

カードゲームでは、不利なボードステート(盤面の状況)で無理にリソースを使い切るよりも、次のターンに温存したほうが逆転の可能性が上がる場面がある。

パズルゲームでも、連鎖を途中で妥協して発火するより、もう少し待って大きな連鎖を組んだほうが効果的な場面は多い。「まだ攻めない」という判断が、結果として相手への圧力になる。

有利を小さく積み上げるアプローチ

「戦わずして勝つ」は消極的に見えるかもしれない。でも実態は「有利な状況を自分から作りに行く」積極的な戦略だ。

MOBAのCSing(ミニオンのラストヒットを取ってゴールドを稼ぐ基本動作)やウェーブマネジメント(ミニオンの波を意図的に操作してレーンの有利を作る技術)で少しずつゴールド差を広げていく。FPSでマップコントロール(マップの要所を押さえて相手の動ける範囲を制限すること)をじわじわ広げて相手の選択肢を減らす。バトロワで安置(ラウンドが進むにつれて縮小する安全なエリア)の収縮に合わせた早めの移動でポジション優位を取る。

一発逆転の大技に頼るのではなく、小さな有利を5つ、10と積み重ねて、気がつけば勝っている。孫子が理想とした勝ち方は、まさにこのスタイルだ。

各ジャンルでの孫子の兵法の活かし方

ここまで見てきた3つの原則を、各ジャンルに落とし込むとこんな形になる。

FPS/TPS: エコノミー管理とマップコントロールが「戦わずして勝つ」の実践。敵のバイ状況を読んで有利なラウンドを確実に取り、不利なラウンドでは無理せずエコ(節約ラウンド)にする判断力が孫子の教えそのもの。FPSでの戦術的思考を深めたい人は FPSの戦術基礎シリーズ も参考にしてみよう。

格ゲー: 読み合いの構造が「兵は詭道なり」を地で行く。技のフレームデータ(攻撃の発生から硬直までの数値データ)を把握して有利な間合いで戦うのは「知彼知己」の応用。格ゲーの読み合いについては 読み合いの構造シリーズ でジャンル固有の解説がある。

MOBA: ドラフト段階での「敵を知る」、ウェーブ管理やジャングル動線での「有利の積み上げ」、オブジェクト管理(ドラゴンやバロンなどの中立モンスターの制御)での「戦わない勝ち方」。MOBAは孫子の兵法を最も包括的に活用できるジャンルかもしれない。MOBAのマクロ戦略は マクロ戦略シリーズ で詳しく扱っている。

カードゲーム: メタ読み(現在の環境で強いデッキの傾向を分析すること)がデッキ選択の段階で有利を作る。相手のデッキを推定して最適なプレイングを選ぶ過程は、孫子の情報戦の考え方と完全に一致する。カードゲームの確率論や判断力については 確率と判断力シリーズ も見てみるといい。

バトロワ: 降下地点の選択、漁夫判断(他のチーム同士の戦闘に第三者として介入するかどうかの判断)、安置先入り(安全エリアの次の縮小地点に先回りすること)。「戦わずして勝つ」の原則が最も直接的に順位に結びつくジャンルだ。バトロワの生存戦略は 生存戦略シリーズ で体系的に学べる。

パズル/音ゲー: 対人パズルでは相手の連鎖の組み方を観察して対処を変える「知彼知己」が効く。音ゲーでは自分の得意・不得意を把握してスコア戦略を立てる「己を知る」の精度が成績に直結する。パズルの思考力については パズルの思考力シリーズ を参照してほしい。

まとめ -- 古典から学ぶ「考え方のフレームワーク」

孫子の兵法は「こうすれば勝てる」というテクニック集ではない。「どういう考え方をすれば、勝てる状況を自分で作れるか」というフレームワーク(思考の枠組み)を提供してくれるものだ。

「敵を知り、己を知る」「相手の裏をかく」「戦わずして勝つ」。この3つの原則は、FPSでもカードゲームでもMOBAでも、ジャンルを問わず機能する。新しいゲームを始めたとき、まず何から手をつければいいかわからない。そんなときに、この3つの原則を思い出してみてほしい。

技術は練習で身につく。でも「どう考えるか」は、意識しないと変わらない。考え方のレベルを一段上げると、すべてのゲームがもう少し深く見えてくるはずだ。

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